日本語教育のお話

そもそも、なぜ自分の子供に日本語を勉強させたいのか?そして、そのゴールは一体なんなのか?

 

海外に住み、または、外国語を母国語とする男性と結婚し、生活の中に2つあるいはそれ以上の言語が飛びかっている家庭にとって、「子供に日本語を学ばせる」ことは、非常に大きなテーマの一つ。しかし、「何のために?」「そのゴールは?」と聞かれたときに、明確に答えられる親御さんはどれほどいらっしゃるでしょうか?我が家での日本語教育を振り返ってみますと、なんとなく日本語を継承しなければならないという漠然とした責任感に追われながら、日々の補習校の宿題をどうにかこうにかこなしている、と言う日々。そんな私にとって、ミミさんによる「日本語教育のお話」は、立ち止まって現状を見つめ直し、日本語教育について考え直す、いいきっかけを与えてくださいました。

 

講演者であるHam—榊田みえこさん(ミミさん)は、日本語教育を専門とする教育者として長年活動されてきたお一人です。また、母としては、一人息子を補習校には通わせずに、家庭で日本語を教えてきたそうです。一言で言うと「なまけもの」で、苦労することがあまり好きではないという息子さんに、どうやって日本語を学んでもらうのか?いやなことを強制するのではなく、どうやったら「楽しく」日本語を勉強できるのか?常にポジティブシンキングで、クリエイティブな発想とユーモアの助けを借りながら、息子さんの日本語教育を支えてきたミミさんの体験談には、我が家でも参考にできるエッセンスがたくさん詰まっていました。

 

ミミさんは日本語教育において、「感性」を非常に大切にされています。言葉や言語だけを他のものから切り離して教えるのではなく、その背景にあるもの、その先にあるものをひっくるめて言語というものをとらえ、教えていく。考えてみたら、私自身の日本語も、生まれ育った信州の色彩や風景、方言や郷土食の中に埋め込まれるようにして、そして、それらに支えられて成り立っているものなのだ、と気づかされました。知識としての言語そのもの、というのは、それ自体では張りぼてのようなものでしかありません。そうではなく、実際に見たもの、感じた事、聞こえた音、に裏付けられているときに、その言語が本当の意味で自分のものとなるのではないでしょうか。だからこそ、ただ必死に教材やプリントで日本語を叩き込むのではなく、いろいろな経験を通して日本語を学ぶことが大事なんだな、と納得しました。

 

ミミさんは、家庭において楽しくユーモアあふれる日本語教育を実践されていたと書きましたが、ただあてずっぽうに学習していたわけではありません。きちんと明確なゴール設定をしたうえで、その方法はあくまでもフレキシブルに、自分の子供にあったやり方を常に模索していたそうです。彼女が息子さんの日本語教育にあたり、ゴールとして設定したのは、「成人になって、仕事で日本語を使うことになっても問題ないレベルの日本語」だったそうです。もちろん、各家庭によって環境や状況が異なりますから、この目標は家庭によって違っていていいと思います。でも、明確なゴール設定があれば、それは「暗闇を歩くときに道を照らしてくれるランプ」のように、紆余曲折のあるこの道を歩んでいく助けになってくれることでしょう。

 

もう一つ、ミミさんのお話で心に残ったのは、バリエーションに富んだ文章に触れることの大切さ、です。私たちが子供たちに与える文章は、物語や説明文などの、いわゆる「きれいな」文体で書かれたテキストが多いのではないかと思います。そうした文章ばかりで子供の日本語環境を固めたくなってしまう親の心理もよくわかりますが、でも、あまり喜ばしくない言葉遣いを知ることもとても重要です。人生や世界にだって、美しいものがあると同時に、目をそむけたくなるものだってあることでしょう。そして、どれも避けては通ることのできない現実なのです。言葉にしてみても、同じことが言えるのではないでしょうか。

美しいおとぎ話だけではなく、ちょっと乱暴な言葉遣いが出てくる漫画も、新聞にはさまってくるチラシも、何気なく街角に貼ってあるポスターも、初恋の相手に書くラブレターも、仲のいいお友達に送るSMSやメールも、さらには嫌味や下ネタだって、上手に適切に活用すれば、立派に語学学習の教材になりうるのです。選り好みすることなく、雑食にいろいろな種類の文章に触れてもらうこと。それが、感性を刺激しながら日本語を学んでもらうためのキーワードなのかもしれません。

 

私も、ミミさんに習って、「張りぼてではなく、感性に裏付けられた言語」を念頭に置きながら、ユーモアをもって子供たちに日本語を教えていきたいと思います。まずは、その指針となるべくゴールを見定めるところから。子供にとって、そして、親である私にとって、適切なゴールは一体どこなのか?心を新たにして、まずは真剣にその答えを見つけてみたいと思います。