イエナプラン校見学

先日のワークショップに先だって、「イエナプランを実践している小学校へ見学に行く」いう宿題がありました。メンバー数人で、アウトホールンにあるStartnestという小学校に見学を申込み、快く承諾していただくことができました。

あいにくの雨模様の中、小学校に到着すると、まず目に飛び込んできたのが土の校庭と木々、そして、そこに配置されているアスレチック遊具。土の校庭なんて、日本では普通かもしれませんが、オランダでは実はとても贅沢。なにせ、小学校の校庭と言えば普通はコンクリートで、そこにすべり台やジャングルジムのような遊具がぽつんぽつんとあるのが一般的なのですから。

玄関前に飾られている、イエナプランの認定証。これは、イエナプランの理念がきちんと実践されている学校のみにオランダイエナプラン協会から与えられるものです。

 

校舎の中に入ってみると、どこも窓が広く大きくとってあり、とにかく見通しがいいのが印象的。小さな子供達が階段を使わなくていいように、低学年の子供達が一階に、高学年のクラスが二階にあるというのは一般的ですが、驚いたのは一階から二階へ行く階段の踊り場が講堂になっていること!そして、その講堂の片隅には図書館まであります。新しいテーマ学習が始まるとき、テーマ学習の成果を発表するときなど、全校生徒がこの講堂に集まります。異学年の子供達がお互いに隔離されることなく、いつでも集まって一緒に活動できるように、という思いがこの建築様式から伝わってきます。

 

各クラスには、先生と生徒たちが一緒になって考えたユニークな名前がつけられています。1組、2組、3組とか、A、B、C組のように無機質な名前ではなくファンタジーあふれる名前なのが素敵です。このクラスは、「Tureluur」という名前。

 

お会いした校長先生は、まだ若い校長先生で、教育にかける熱意と真剣さがひしひしと伝わってきます。気さくなお人柄で、私たちの訪問も快く引き受けてくださり、半日時間をかけて校内見学や質疑応答をしていただきました。自分たちが取り組んでいることに誇りを持っていて、たくさんの人に是非見てほしいといった感じ。日本人の教育関係者が視察に来ることも珍しくないのだとか。(写真は校長室にて撮影。写真奥が校長先生のユルエンさん。写真手前が総務担当の方。)

建物について伺ってみると、現在使っている建物は、イエナプランの理念を盛り込んで特別に設計されたものだとか。緑豊かな公園の真ん中という立地で、自然に囲まれた環境を活かし、どの教室からも緑豊かな景色を見れるように、と配慮されているそうです。お天気のいい日には教科書を持って外へ出て芝生の上で授業をすることもあると言いますから、なんとも羨ましい限りです。

 

この学校では、幼児部(日本で言う幼稚園の年中と年長)、低学年(小学校1年と2年)、中学年(小学校3年と4年)、高学年(小学校5年と6年)というクラス構成になっています。各学年3~4クラスで、全校生徒300名ほど。一クラスあたりの人数は、25名を原則としているそうです。
「ホンモノの学び」をモットーにしているイエナプランでは、様々なアクティビティーを催すために保護者の協力は欠かせません。扉に貼ってある課外活動の表には、いつ誰が何を担当するのかが明記されています。仕事を持っているパパやママ達も積極的に活動に参加してくれるからこそ、調理実習や読み聞かせ、技術体験などが可能になるのですね。びっしりと書き込まれた活動表から、子供の教育を人任せにしない、そんな意欲が伝わってきます。

 

学校の決まりごとは、わかりやすくピクトグラムで示され、学校のいろいろなところに貼ってあります。赤で示されているのは「してはいけないこと」、緑で示されているのは「是非してほしいこと」なんだそうです。色分けをすることで、子供達へのメッセージが更にわかりやすく伝えられますね。

 

そして、色を活用しているという点では、各クラスに設置してある「意見箱」も興味深かったです。生徒たちが学校生活を送っている中で、気づいたことを書いて入れるための箱ですが、子供達は自分の意見の種類によって紙の色を使い分けています。たとえば、困ったことがあったり、他の生徒に注意をしたいような場合は「赤」。その他、「新しい提案」や「他の生徒への褒め言葉」などいくつかの種類があるそうです。

 

どんな生徒からでも学べることはある、違いからこそ学ぶことは多い、というイエナプランの理念を実現しているこの学校では、ダウン症や学習障害などの障害を持った子供達も普通学級の中で一緒に勉強しています。これは、本当に素晴らしいことだと思います。なぜなら、特定の人々を学校から排除してしまうことによって、子供達の頭の中にイメージされる社会の中にはそうした人々が存在場所を失ってしまうからです。「社会を学ぶ」、とは、社会には多種多様の人々がいることを学ぶこと。そして、他人との違いを学び、それぞれに欠けている部分を補い合い、支え合っていく方法を探ること。最終的には、みんなで一緒に幸せになろうと努力すること、ではないでしょうか。これこそが、イエナプランの中核をなすシチズンシップ教育の根底にあるのだと思います。

 

シチズンシップ教育という観点から、もう一点。この学校では、子供達が運営する生徒会があり、この生徒会は学校内部の事柄だけでなく、学校を取り巻く環境や自治体についても心を配っているそうです。たとえば、他の市から車を運転して来てアウトホールン市に入るところに、市の名前を書いた立札があります。ここに、アウトホールンにいらしてくださる方に歓迎の意を表すために、「Welkom(いらっしゃいませ)」という表記を付け加えてはどうか、という提案が学校の生徒会の中で持ち上がったことがあるそうです。この提案は、生徒会から市役所へ届けられ、今ではアウトホールン市に来る人々のために、「Welkom」の看板が掲げられるようになったという事です。教育と社会とは断絶されるべきではなく、直接結びついていなければならない。これもイエナプランが大切に考えていることですね。

 

また、この生徒会のもう一つの大事な役割は、学校内部の様々な問題について話し合い、学びを推進するような環境を整えて行くことです。ちょうど私たちがお邪魔した時は、校庭のベンチの設置などについて話し合われていました。自分が属している社会(学校という小さなものであれ、国と言う大きなものであれ)のことを考え、その中で自分に何ができるのかを考える。実行にも移していく。こうした経験を持つ子供達が、大人になってから共同体の中でどういった存在になるかを考えると、こうした取り組みがいかに重要かお分かりいただけることと思います。

 

今回の訪問で、一番心に残ったのが、この写真。

一人の女の子を中心に、みんなが輪になってヒモを引っ張っている一枚の写真。女の子から放射状に広がるヒモは、みんなの力で支えられ、彼女を上へ上へと押し上げる。ヒモを引っ張っているのは、子供だけでなく、大人もいる。性別を超えて、年齢を超えて、国籍を超えて、みんなで一人の成長を助けるということ。それを見事に表現したこの一枚の写真は、イエナプラン50周年のフォトコンテストでも優勝したそうです。

明確なビジョンを持ち、それを小学校教育の中で実現しようとしているStartnestの決意と誇りが伝わってくる一枚の写真。こんな学校が増えてほしい、こんな教育を受ける子供達が増えてほしい、と思わずにはいられませんでした。